大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 平成4年(ネ)25号 判決

岡山市〈以下省略〉

控訴人

右訴訟代理人弁護士

水谷賢

右訴訟復代理人弁護士

大土弘

岡山市〈以下省略〉

被控訴人

岡山県

右代表者知事

長野士郎

右訴訟代理人弁護士

片山邦宏

右指定代理人

犬飼忠男

浦上八十橿

国近寛康

岸本芳明

豊田ひとみ

岡山市〈以下省略〉

被控訴人

社団法人岡山県獣医師会

右代表者理事

右訴訟代理人弁護士

土屋宏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

控訴人は、「1 原判決を取り消す。2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金120万円及び内金100万円に対する昭和62年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。4 仮執行宣言」との判決を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

一 原判決5枚目表7行目末尾の次に改行の上「よって、控訴人は、被控訴人らに対し、民法709条、719条に基づき、右損害合計120万円及び内金100万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和62年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」を加え、同7枚目裏8行目「岡山支部」を「被控訴人社団法人岡山県獣医師会岡山支部」と改める。

二 控訴人の主張

原判決には法令解釈の誤りがある。

1 原判決は、狂犬病予防注射の実施に公共目的があることを理由として、集合注射が自由競争経済秩序を維持することを目的とする独占禁止法の規制外にあるとするが(原判決15枚目表)、公共目的があることから直ちに独占禁止法の規制外と判断するのは独断である。

2 原判決は、控訴人が、被控訴人らが実施主体となって独占的に実施する狂犬病予防注射業務から完全に排除されており、集合注射市場における獣医師間の技術競争、料金競争等が制限されていることを看過しており、独占禁止法8条1項1号、4号の解釈を誤っている。

三 被控訴人岡山県の主張

控訴人の主張は争う。

四 被控訴人社団法人岡山県獣医師会の主張

控訴人の主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、原審記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次のとおり訂正、付加、削除するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

1 原判決11枚目裏10行目「甲第9号証の1、3」を「甲第1号証、甲第9号証の1、3、甲第10号証」と、同12枚目表1行目「甲第39号証の1、2」を「甲第34、第35号証、第38号証の1、第39号証の1、2、第40号証」と、同11行目「進入」を「侵入」と、同13枚目裏3行目「行っていること、」を「行っている。」と各改め、同6行目末尾の次に「集合注射の際の注射料金(注射済票交付手数料を含まない。)については、被控訴人岡山県が最高限度額を指定し、被控訴人社団法人岡山県獣医師会が右最高限度額を「県から指示された額」であるとして右最高限度額を注射料金とする旨施行規程(甲第9号証の4)で定めており、注射料金は予防注射を行った開業獣医師において取得している。」を、同14枚目表7行目「基づき」の次に「岡山県知事が」を、同9行目「左記」の前に「概ね」を各加え、同10行目「記」を「次の各号に該当しない者であること」と、同裏9行目「開業歴1年以上の者との要件」を「開業歴1年以上の者、開業部会員である70歳以下の者等の要件」と各改め、同15枚目表1行目から同裏6行目までを削除し、同裏8行目「結果、」の次に「調査嘱託の結果、」を加え、同16枚目表4行目「6万5000頭」を「6万9000頭」と改める。

2 原判決16枚目裏4行目から同17枚目表7行目までを次のとおり改める。

「四 そこで判断するに、狂犬病予防法は、その5条で狂犬病の予防注射の実施主体を明示せず、13条で狂犬病が発生した場合についてのみ都道府県知事の検診及び予防注射の権限を明示しているけれども、これは、都道府県が自ら集合注射を実施し、もしくは各都道府県の獣医師会に委託して集合注射を実施することを禁止するものではなく、集合注射の実施は、地方自治法2条2項、3項1号が規定する公共事務に当たるものと解するのが相当である。

ところで、集合注射の実施について、これが公共目的に基づくことから直ちに独占禁止法の適用を受けないものと解することはできない。また、独占禁止法3条等の適用を受けるべき事業者(同法2条1項)とは、商業、工業、金融業等何らかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動(事業)を行う者を指すものというべきであり、営利を直接の目的とすると否とを問わないから、地方公共団体も右の事業を営む関係においては事業者に当たる場合があるものと解するのが相当である。しかしながら、前記認定の事実関係によれば、被控訴人岡山県は、集合注射の実施自体を被控訴人社団法人岡山県獣医師会に対して委託し、それに対し指導、広報等の行政的措置をするにとどまっているものと認められるから、集合注射に関して、独占禁止法における事業者には当たらないものというべきである。

これに対し、被控訴人社団法人岡山県獣医師会は、独占禁止法上の事業者である開業獣医師の共通の利益を増進することを主たる目的としており、事業者団体(同法2条2項)に該当するものと解するのが相当であり、集合注射が被控訴人岡山県の公共事務であり、その委託に基づくことから直ちに独占禁止法の適用を受けないものと解することはできない。

そこで、被控訴人社団法人岡山県獣医師会について、独占禁止法が事業者団体に対して禁止している同法8条1項1号、4号所定の事由があるか否かについて検討する。

前記認定の事実関係によれば、岡山県知事の指定のない獣医師は、被控訴人岡山県が被控訴人社団法人岡山県獣医師会に委託して実施している集合注射に参加することができず、また、岡山県知事が右指定を行うに当たり、被控訴人社団法人岡山県獣医師会が候補者の推薦を行っている。しかしながら、開業獣医師が、集合注射以外の場で、狂犬病予防注射業務を行うことを禁止されているわけではなく、しかも、現在実施されている集合注射が、事実上、開業獣医師の右業務の実施にとって著しく不当な障害となっていることなどを肯定するに足りる証拠もない。また、被控訴人社団法人岡山県獣医師会が右推薦をするに当たって依拠している推薦基準のうち少なくとも現行のものは、集合注射の業務に従事する獣医師として当然具備すべき要件を定めているものに過ぎず、格別不合理なものは見当たらないから、被控訴人社団法人岡山県獣医師会が右推薦基準に従って指定獣医師の候補者を岡山県知事に対して推薦していることをもって、控訴人の機能又は活動を不当に制限している(同法8条1項4号)などとは言えない(本件は、控訴人が岡山県知事から右の指定を受けられなかったことによる損害賠償を訴求するものではないし、右指定を受けられなかったことが違法であることを裏付けるに足りる証拠もない。)。

次に、前記認定の事実関係によれば、控訴人指摘のとおり、集合注射において、被控訴人岡山県の定めた最高限度額内において被控訴人社団法人岡山県獣医師会が統一料金を定めており、集合注射という一定の取引分野における競争を実質的に制限し、形式的には独占禁止法8条1項1号などに触れるのではないかとの問題がないではないが、それは、集合注射を担当した獣医師にかかわるものであって、少なくともこのような価格決定によって控訴人が何らの損害も受けていないことは明らかである。

以上の次第で、集合注射の制度自体が独占禁止法8条1項1号、4号に違反し、そのため控訴人が損害を受けたという控訴人の主張は失当であり、他に被控訴人らの共同不法行為を肯定するに足りる主張・立証はないから、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。」

二 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山健三 裁判官 渡邊雅文 裁判官 池田光宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例